バグルズ [ Buggles ] は、ティナ・チャールズのバック・バンド [ Tina Charles Band ] にいたトレヴァー・ホーン [ Trevor Horn ] と、ジェフリー・ダウンズ [ Geoff Downes ] からなるユニットです。
本作『The Age of Plastic (発表当時の邦題:プラスティックの中の未来)(現在の邦題:ラジオスターの悲劇)』は、彼らが79年に発表した1st アルバム。
パンク時代の末期に、後のニューウェイヴの下地となるテクノ・ミュージック的手法を用い、地味ながら音楽業界に一石を投じました。
このアルバムからは、今でもいろんなシチュエーションで流されることの多い「Video Killed The Radio Star (邦題:ラジオ・スターの悲劇)」という大ヒットシングルが生まれています。
ちなみに、1981年8月1日12時1分、アメリカで開局したMTVが最初にオンエアした記念すべきミュージックビデオがこの「ラジオ・スターの悲劇」のPVでした。
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「Video Killed The Radio Star」のPV ♪
2004年の「Video Killed The Radio Star」のライヴ映像 (トレヴァー、ジェフリー、ブルースを始め、コーラスまでオリジナル・メンバーです。)
バンドとしては、結果として一発屋的な扱いを受けることが多いものの、ニューウェイヴ時代の幕開けを告げた歴史的名作として今でも語り継がれているアルバムです。
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「Living in the Plastic Age」のPV ♪
「Elstree」のPV ♪
TV番組での「Clean Clean」のライヴ映像 ところで、冒頭で、バグルスはトレヴァーとジェフリーのユニットと書いたのですが、実は、製作当初にはもう1人のメンバーがいたんですよ。
そのメンバーというのが、「ラジオスターの悲劇」の共作者でもあるブルース・ウーリー [ Bruce Woolley ] という人物で、シングルの発売前に脱退してしまったため、結局、2人のユニットとして本作を発表することになったようです。
さらに面白いのは、本作が発表されるまでに、カメラ・クラブ [ Bruce Woolley & The Camera Club ] というブルース・ウーリーのバンド名義のアルバム『
English Garden 』で「ラジオスターの悲劇」を発表しているんです(ちなみに、カメラ・クラブのメンバーにはトーマス・ドルビー [ Thomas Dolby ] の名前も見つけることができます)。
カメラ・クラブ版の方はバグルス版と違って、かなりバンドっぽい演奏なのですが、残念ながらすでに廃盤、レアなコレクターズ・アイテムと化しており、かなりのプレミアがついているので手を出せません(笑)。
これだけ有名な曲だけに意外と言えば意外ですが、共作とはいえ、発表順から言えば、オリジナルはカメラ・クラブ版の方ということになるのでしょうか?
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ブルース・ウーリー & ザ・カメラ・クラブのライヴ映像 (なぜかナックの「マイ・シャローナ」を思い出してしまいました。笑)
さて、ZTTレーベル設立以降はプロデューサー業の方が有名なトレヴァー・ホーンですが、本作を久しぶりに聴いてみると、この頃から皮肉や遊び心をたっぷりと盛り込み、職人技とも言えるポップでメランコリックな近未来的無機質サウンドを構築しているのがわかります。
本作に関しては、時代性もあって、比較的チープな音色のテクノ・サウンドで構成されていますが、後のプロデュース作品はかなり大袈裟な空間処理がなされていることが多いので、同じような手法には聴こえないかも知れません。
しかし、バッキングをよく聴くと、音的にはチープながら、効果的なストリングス・ワークやメリハリを効かせたアレンジが施されており、後のプロデュース作品に通じるトレヴァーらしさを感じることができるのです。
考えてみれば、この後トレヴァー・ホーンがプロデュースしたアーチストの殆どが大ヒットしており、その一部はなぜか一発屋と化しています(笑)。
また、プロデュースされた側のその後のインタビューを読んでいると、必ずと言っていいほど、トレヴァーの楽曲への過剰な介入についての話が出てくるのです。
個人的には彼のプロデュース作品が大好きなのですが、プロデュースされる側にとってみれば、自分たちのアルバムなのに、自分たちの思い通りにならないのですから不満が残って当然です。
しかし、一発屋と化したアーチストは、トレヴァーの手から離れたことで商業的には失敗していることが多いのです。
これは、良くも悪くも、『トレヴァー・ホーン式 売るための方法論』が確立しており、その技術を用いて職人的なプロデュースがなされてきたという証なのかも知れませんね。
そして、その方法論の原型はバグルス時代に形作られたのだと考えることができるわけです。
このアルバムの発表後、トレヴァーとジェフリーは、制作に取りかかったばかりの2ndアルバムの録音を投げ出し、元々大ファンだったイエス [ YES ] に2人そろって加入するという暴挙に出ています。
しかし、イエスは、畑違いの2人を入れたことで従来のプログレ・ファンから総スカンをくらい、解散にまで追い込まれてしまいました(もちろん、それだけの理由ではないと思うのですが…)。
2人は、再びバグルスとして1981年に2ndアルバム『
Adventures in Modern Recording (邦題:モダンレコーディングの冒険) 』を発表することになるのですが、このアルバムの制作途中にジェフリーがエイジアに参加するため脱退、残りはトレヴァーがほとんど1人で仕上げています。
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「Adventures In Modern Recording」のPV 2ndの頃にはすでにフェアライト(当時としてはモンスター級のサンプリング・マシン)を導入しており、1st に比べれば音的にはかなりのグレード・アップをしているものの、残念ながら、ヒット・シングルは生まれず、バグルズは自然消滅してしまいます。
とはいえ、この2ndで使い始めたフェアライトがZTTレーベル設立の引き金になったのは間違いないことでしょう。
その後トレヴァーは、ABCを始め、自ら立ち上げたZTTレーベルの面々や、一度ファンから総スカンをくらったイエス、最近ではタトゥーやベルセバまで次々とヒット曲を生み出す大御所プロデューサーとなりました。
そんなトレヴァー・ホーンの原点であり、80'sニューウェイヴの原点とも言える本作は、まさに歴史的名盤です。
なお、本作はオリジナルレコーディングマスターもので、3曲のボーナストラックを収録したお買い得盤です。
未聴の方や、「ラジオスターの悲劇」以外は知らないという方は、この機会にぜひ聴いてみてください。
この記事を最後まで読んでくださった方なら、間違いなく損はしないアルバムですよ。
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